「なんとなくアブナイかなって予感はあったんですよ。給料の支払いも遅れがちだったし。でも、こんなにすぐに倒産するなんて。もらってない給料3か月分とボーナスと退職金はどうなるの?」
というNさんは5年間勤めていた会社が、つい最近、倒産。しかも多額の未払い賃金まであるという。いったいどうしたらいいのだ!
え〜、2度目の不渡り手形を出すと事実上の倒産となり、裁判所に破産、和議、会社更生法の適用などを申請。破産開始が決定されると、破産管財人が・・・そんなこと、どーでもいいんだ!給料払ってくれ!ごもっともごもっとも。
不幸にも会社が倒産してしまった場合、労働者の賃金は、ほかの一般債権よりも優先して弁済を受けられることになっている(先取特権)。つまり、会社が借金をしていた銀行や、原料を仕入れていた問屋などよりも優先して、未払い賃金を支払ってもらえるのだ。もちろん、払ってもらえるといっても、会社に金がなければしょうがない。そもそも金がないから倒産したわけだしね。そういう場合にはどうするのか。売り掛けや会社の所有財産(在庫や事務機器など)があれば、さっきもいったように先取特権があるので、判決を待たずに差し押さえることができる。でも、自分でやっちゃあダメだよ(裁判所の執行官が行うのだ)。
よく、破産が決定すると社員が先を争って会社の備品、特にコンピュータなどの金メのものを持ってっちゃうけど、これは「自力救済の禁止」といって禁じられている。まあ、たいした金額のものでなければ、お目こぼしといった漢字で、実際に文句をいう人は少ないけど、でも、ダメだよ。
さっき、一般債権に優先して先取特権があると書いたけど、実はそれよりも強いやつがいる。それは誰か。なんと、国税なのだ。労働者の賃金が優先とかいっときながら「お先に〜」ってかっさらってちゃうんだぜ。ヒドイよな。でも、それじゃああんまりだってんで、過去6ヶ月の未払い賃金の約8割を国が立て替え払いしてくれる制度がある。破産が決定したら、@裁判所から郵送されてくる労働債権の届出に未払い賃金を記入して破産管財人に提出。
A裁判所で開かれる債権者集会に出席して金額が決定。B破産管財人から証明書を受け取り、労働福祉事業団に送る。ただし裁判所が破産を決定してからすぐにもらえるわけではないので注意を。
なお、賃金請求権は2年で時効。未払い賃金がたまっている場合には時効になる前に書面で未払い額を確認してもらっとこう。と同時に、次の職場も捜しときましょう。
労働組合と聞くと「なんかダサイよね。それにどうもヘンな思想がかかってるような印象があるしさあ、とにかくオレは関係ないんだ」という人、けっこう多いんじゃないかな。確かに一部の労働組合が意味をなさない御用組合(要するに会社のいいなり)だったり、春闘とかメーデーのニュースで見るような「健全な過激派!?」みたいなイメージが強いのも事実。でも、その一方で、組合を作るということは労働者の権利を守る強力な手段だということも、また事実なのだ。
たとえば労働組合には、憲法28条で認められた団体交渉権があるから、ひとりではなかなかいえないようなことでも会社に要求できる。○野△夫の要求、となると「上司から悪い印象で見られてしまってソンしそう」という気がするけど、組合の名前で要求するのならダイジョーブだよね。
「でも、うちの会社って労働組合がないんですよ、昔っから。しかも、今後もゼッタイに作っちゃいけないっていわれましたよ」(Wさん・26歳・出版社勤務)
いるんだよ、こういう経営者が。立派な法律違反だって。労働者が労働組合を結成・加入しようとしたり、組合活動するのを邪魔しちゃいけないって、労働組合法で決まっているんだから。
労働組合をつくるのは、それほど難しい話じゃない。2名以上の労働者が集まり、総会を開いて、規約を作って役員を決めれば立派な労働組合の結成だ。規約の内容についても、特別に規制は設けられていない。最初は思いつかないだろうから、同じような規模の会社の組合の規約を手本にするといいだろう。組合ができたら、ちょっと面倒だけど法人として登記しておくとイロイロと便利だ。
Wさんのように、会社が組合を作ることを禁じているような場合(もちろんそれ自体が違法なんだけど)でも、会社の承認はいらないし、届出もいらない。まったく勝手に作ってもいいのだ。むしろ、結成前に知らせたりすると邪魔される恐れがあるからね。こっそりと作って、できてから、ジャーンと公開してやればいいんだ。驚くぜ、社長。もちろん、そのことを理由にイヤガラセを受けたら、不当労働行為として正々堂々と戦ってやればいい。なお、不当労働行為に対しては、各都道府県の労働委員会に相談を。「救済命令」を出すなど、なんらかの策を講じてくれるのだ。
さんざん強気なことを書いてきたけど、実際問題、労働組合を作られて喜ぶ社長はいない。それは事実。だけど、確実に労働条件がよくなるハズだから、その会社を本当に気に入っているなら作ってみる価値はある。社員仲間からも尊敬されるだろうし、リーダーとしての力を認められて出世した話もあるからね